NHKは2026年3月1日、主に中東在住の邦人向けに、短波ラジオの24時間臨時放送を開始したと発表をした。そこで、X上ではそれなりに評価する声がみられるが、実際どうなのか短波放送を聴いてみた。
NHKの公式発表によると、通常、中東向けの短波放送は1日6時間に限られている。米イスラエルのイラン攻撃を受け、放送法の規定に基づき24時間体制に拡大した、というわけだ。
実は、これは恐らく国費(受信料ではなく国民の税金)で運営される放送だ。NHKは公式には明言していないが、国の要請に応じて行う放送の費用は国が負担するよう放送法で定められており、過去実績によると、ラジオ国際放送には年間9億円程度が交付されている。
Xではこの対応を評価する声も少なくない。
だが、その放送を実際に聴いた人はどれだけいるだろうか?今回、私も初めてラジオの国際放送(短波)を聴いてみた。
ブラウザひとつで短波を聴く方法がある
NHKの短波放送は海外向けのため、日本国内からは通常聴けない。NHKもそのつもりで放送しているはずだ。
しかし「KiwiSDR」というサービスを使えば、世界中に設置されたソフトウェア無線受信機をブラウザから操作できる。サウジアラビア、キプロス、ギリシャなど中東に近い受信機を選び、NHKの短波周波数に合わせれば、在外邦人が聴いているのと同じ放送をリアルタイムで受信できる。
今回は、サウジアラビアの受信機を選んだ。
NHKの短波ラジオ(国際放送)から聴こえてきたもの
3月1日の23時(中東では夕方にあたる)、私はサウジアラビアに設置されたソフトウェア受信機で、NHKが案内した9450kHzに合わせた。
受信状態は意外と良好だった。
日本語がはっきり聴こえる。イランから数百キロの地点で、NHKの電波が届いている。その事実は驚きだ。
正時のニュースが5分間流れた。特に新情報は無かったが、R-1と同じ内容の中東情勢のニュースだった。
その後始まったのは、ラジオ深夜便。
卒業式のオープニングトーク、能登など地域の話題、朝ドラの宣伝、温泉の話題など、イラン情勢など全く無関係の「深夜便」が、いつも通り流れていた。
現地の邦人がこれを聴いてどう思うのだろうか?日本語が聴こえてきた点で安堵感はあるかもしれないが、私だったら取り残されたような疎外感を抱くのではないかと思えた。
「クッション」作りが目的化している
私も入局直後は知らなかったのだが、生放送は本来、内容を柔軟に組み替えられるからこそ、緊急報道にいつでも切り替えるための「クッション」として編成されている。
再放送も同じだ。いつでも打ち切って差し替えられるようにしている。
しかし今のNHKでは、「クッション」を放送すること自体が目的化している。この記事を書いている最中に放送されている「深夜便」はまさにその典型だ。本当か嘘かわからない温泉の話題に、アナウンサーが空虚な頷きを繰り返している。
振り返れば2月28日、米イスラエルの攻撃が始まった直後、NHKは64分間にわたって民謡とお笑い番組五輪の再放送を流し続けた。特番への切り替えはなかった。
テレビでの沈黙も、今放送されている国際放送の短波ラジオも、その本質的な目的を忘れ、ただ放送枠を埋めることだけが目的化しているのだ。
NHKの海外放送は「誰も検証しない」前提で動いている
2024年8月、NHKの国際放送で中国籍のスタッフが原稿にない政治的主張を約20秒にわたって放送する事件が起きた。尖閣諸島の領有権主張、南京大虐殺や慰安婦への言及。
この「放送ジャック」が発覚したのは、国際放送と同時放送していたラジオ第2を国内で聴いていたリスナーからの通報がきっかけだった。つまり、NHK自身は海外向けに何が流れているかを即座にチェックする体制を持っていなかった。
短波放送は「誰も聴いていない」という前提で運用されてきた。24時間臨時放送の中身がラジオ第1の垂れ流しなのは、まさに誰もチェックしない前提だからだ。
能登のときも同じだった
2024年1月の能登半島地震でも、NHKの報道は消極的だった。
発災翌日には放送体制を縮小し、3日目にはL字画面すら出さずドラマの再放送に切り替えた。空撮ヘリの出動も遅れた。
働き方改革を名目に土日・深夜の報道体制を薄くした結果、緊急事態に対応できる人間がいない。
国内の大災害でこの状態なのだから、海外の戦争に対して短波で独自コンテンツを編成する余力など、今のNHKにはないのだろう。
もし日本が有事に巻き込まれたら
ここで一つ、想像してほしい。
もし日本自身が有事に巻き込まれたとき、テレビ放送やインターネットが寸断されたとしたら、NHKが情報を届ける最後の手段は短波放送になる。
電話もネットもダメな状況で、短波ラジオだけが命綱になる。外務省も海外渡航者に短波ラジオの携行を推奨している。
その命綱の品質が、今この状態だ。
24時間臨時放送と銘打って、中身はイランとはまるで関係ない朝ドラの番宣を行っている(そのうち流れるのだろうが)。
ニュースヘッドラインの読み上げ行わない。在外邦人向けの退避情報も今のところない。23:55から臨時放送の案内、時間帯ごとの周波数の読み上げがあったくらいだ。
東日本大震災のときはできたことが、今はできなくなっている。
この短波放送の情報品質は、将来の日本有事における私たちの生存に直結する問題だ。「海外のことだから関係ない」では済まない。
少なくとも効果検証は必要だ
NHKに対して、以下を問うべきだろう。
- 臨時放送で何をいつ伝えたのか
- 在外邦人向けの独自の安全情報は放送したのか
- この放送がどのような効果を発揮したのか
深夜便で純烈の歌を流して、それで在外邦人の心が安らいだというのなら、それでもいい。だが少なくとも、効果検証は必要だ。
公費で行う放送に「やりました」だけで済ませることは許されない。
KiwiSDRでNHK短波を聴く手順
以下は自己責任で試してほしい。
1. ブラウザでKiwiSDR受信機マップ(http://kiwisdr.com/public/)にアクセスする
2. 中東付近の受信機を選ぶ(サウジアラビア、キプロス、ギリシャなど)
3.周波数を入力する(9450kHz、9750kHz、11675kHz、15195kHzなど。時間帯で変わる)
NHKの中東向け周波数は時間帯によって変わるが、正時には原則ニュースが流れるはずだ。公共放送が有事にどう機能しているか——あるいは機能していないか——を、自分の耳で確かめてほしい。

