ある日突然、テレビ局や新聞社から「取材させてください」と連絡が来る。
SNSで投稿がバズった、何かの当事者になった、専門家として話を聞きたい——理由はさまざまだ。
「テレビに出られる」、「新聞に載る」という高揚感から、深く考えずにOKしてしまう人は多い。しかし、取材を受けることは、一般の人にとってはリスクしかない。
かつて著名な映画監督としても知られる森達也氏も同じことを話していたが、メディアの現場を知る者として今もまさにそう思う。
本稿では、取材依頼が来たときに一般の方が知っておくべきこと、確認すべきこと、そして「断る」という選択肢について解説する。
※以下、note記事(有料)のマイナーチェンジ版を掲載
https://note.com/darkside_of_nhk/n/n0862371402dd?sub_rt=share_sb
なぜあなたに取材依頼が来るのか
メディアはどうやってあなたを見つけたか?
「なぜ私に?」——取材依頼を受けた多くの人が最初に抱く疑問だ。メディアが取材相手を見つける経路は、主に以下の4つに集約される。
第一に、SNSやブログでの発信だ。メディアは日常的にSNSをチェックしており、話題になっている投稿や、特定のテーマで発信している人を探している。
第二に、過去の取材実績がある。一度でも雑誌、新聞、行政の広報誌などに取り上げられた人は、検索で見つかりやすく、「取材慣れしている」と判断される。
第三に、知人からの紹介。記者やディレクターは人脈を使って取材相手を探すことも多い。
第四に、メディアが実施するアンケートへの応募だ。番組や記事の企画のために募集をかけ、応募者の中から選ぶケースもある。
つまり、あなたに連絡が来たのは「あなたの意見を聞きたいから」ではなく、「あなたが見つけやすかったから」もしくは「使えそうだったから」という可能性が高い。
あなたは「主役」ではなく「素材」である
ここで厳しい現実をお伝えする。
メディアがあなたに連絡してきたとき、あなたは「話を聞きたい人」として選ばれたわけではない。あなたは「素材」として選ばれたのだ。
メディアが取材相手を選ぶ基準はシンプルで、「番組や企画の方向性に合っているかどうか」だ。特に重視されるのは、インパクトのあるエピソードを持っているか、画として使える写真や動画があるか、といった「素材」としての価値である。
「この人の話をじっくり聞きたい」という動機で連絡が来ることは稀だ。
スケジュールに余裕があり、周辺取材をゆるく行える場合に限られる。ほとんどの場合、制作者は「どんな素材が撮れるか」、「企画にどうはめ込めるか」を考えながら取材相手を探している。
街頭インタビューでさえ、ランダムに声をかけているわけではない。カメラの前で楽しんで話してくれそうな人相風体の人を選んでいる。トラブルを避けたい、タイトなスケジュールの中で制作者の意図に合う人を確保したい——それがメディアの論理だ。
「共感してくれた」は技術である
取材を受けた人がよく口にするのが、「記者さんがすごく親身に話を聞いてくれた」、「共感してくれた」という感想だ。
しかし、それは人間としての自然な反応ではない。相手から話を引き出すための技術である。
取材中、制作者の頭の中では常に編集作業が進行している。
「このエピソードはどう使えるか」、「どの話をどう料理すれば面白くなるか」「どんな演出で肉付けするか」——そうしたことを考えながら話を聞いている。
関係ない話をあえて聞くこともある。それは相手にたくさん喋らせて「助走」をつけ、本音や印象的な発言を引き出すためだ。
悪意があるわけではない。これがプロの取材技術なのだ。
だが、受ける側は「ちゃんと聞いてもらえた」という実感と、最終的な放送・掲載内容との間にギャップが生じうることを知っておくべきだ。
なお、技術のない新人が取材に来る場合、かえってこじれやすい。
焦点が絞り切れず、とりあえず聞けるだけ聞いてきて、上司と一緒に編集段階で「どういう角度で、どう使うか」を決める。このパターンでは、取材時の雰囲気と最終的な内容の乖離が大きくなりがちだ。
あなたの発言は「文脈」に組み込まれる
取材で、正直に、丁寧に話した。それでも放送や記事を見たら「思っていたのと違う」——こうしたことは珍しくない。
具体的に何が起きるのか。発言の一部だけが切り取られる。前後の文脈が無視される。あなたの発言の前後に別の映像や情報が配置され、発言の意味が変わる。こうした編集は日常的に行われている。
重要なのは、「全体の文脈」——つまり番組や記事が最終的に何を伝えようとしているか——は、取材前の段階で決まっているということだ。全体の文脈が決まらないまま取材を進め、コストを使うことは通常許容されない。
誠実な制作者であれば、取材時に全体の方向性を説明し、取材対象者の思いとズレていないかを確認する。しかし、制作のピークに達してから上位者の判断で軌道修正を求められることもある。テレビはそれが顕著だ。週刊誌も、見出しを派手にするために多少歪むことはある。
「扱いが小さい」「尺が短い」といった不満より、全体の大きな文脈に合わせるピースとして無理やり形を歪められることのほうが、深刻なトラブルになりやすい。
「広めたい」だけでは受ける理由にならない
「自分の活動や事業を広めたい」、「社会に届けたい思いがある」——取材を受ける動機としてよく挙げられる理由だ。しかし、これだけでは取材を受ける十分な理由にはならない。
なぜか?
メディアが発信すれば世の中がそれを素直に受け取る、という前提が崩れているからだ。
今日、マスメディアに対して素直なスタンスで情報を受け取る人は少ない。視聴者・読者は「メディアには何らかのバイアスがある」と思いながら見ている。
取材を受ける価値があるのは、メディアがどんなバイアスをかけうるのか、そして受け手がどんなメッセージを受け取り、どう反応するかまで設計できる人だけだ。
つまり、メディアを「使う」発想ができるかどうか。それができないなら、取材を受けるメリットはほとんどない。
例外があるとすれば、対立する事象が描かれているときに、少なくともメディアに対して反対意見を表明したという事実自体が重要になるケースだ。
あるいは、特定の記者に「恩を売る」ことで、独自情報を持ってきてもらうようなギブアンドテイクの関係を構築できる場合。いずれも高度な戦略であり、一般の人には難しい。
マスメディアをシャットアウトしてもリスクはない
「取材を断ったら、逆に悪く書かれるのでは?」、「逃げたと思われるのでは?」——こうした不安を持つ人は多い。
結論から言えば、マスメディアの取材をシャットアウトしてもリスクはない。必要なら自ら発信すればいい。事件・事故の当事者になった場合でも、手記を出すなどの対応で十分だ。
勤め先や所属組織の問題でスポークスパーソンとして対応せざるを得ない業務命令があるなら、やむを得ない。ただしその場合も、なるべく本名は出さず「担当者」として対応したほうがいい。
SNSの投稿が炎上してメディアが殺到している場合も同様だ。SNS炎上の賞味期限は3日程度。マスメディアには一切応じず、一般の方や株主など、本当に説明すべき相手にだけ回答すればいい。
依頼経路は「安心の根拠」にならない
取材依頼がどの経路から来たかによって、一般の人は無意識に安心感を抱きがちだ。しかし、その直感はほとんど当てにならない。
「会社の広報経由だから安心」——これは間違いだ。広報部門は会社を守る存在であり、あなた個人を守るとは限らない。広報がOKを出した取材でも、あなたにとって不利な内容になる可能性はある。
「知人の紹介だから信頼できる」——これも危険な思い込みだ。紹介者に悪意がなくても、番組や記事の意図は別問題である。紹介者は企画の全体像を知らないまま橋渡ししていることも多い。
「SNSへのDMは怪しい」——実は、相対的にはまだ安全な経路だ。やり取りが証拠として残るからである。もちろん、相手の身元確認は必要だが、電話や訪問よりは検証しやすい。
「突然の電話や訪問は怖い」——この直感は正しい。いきなりの電話や訪問は、そもそも詐欺を疑うべきだ。正規の取材であっても、即答を求めてくる相手は信頼に値しない。
NHKでも歪んだ取材はある
「大手メディアなら安心」という思い込みも捨てたほうがいい。残念ながら、マスメディアの人材レベルは全体として低下している。NHKであっても、歪んだ取材が行われることはある。
ブランドや経路で安心するのではなく、個別の案件ごとに判断するしかない。「この企画は何を伝えようとしているのか」、「この担当者は誠実か」——確認すべきことは、どのメディアからの依頼であっても同じだ。
遠慮は不要 最初に確認すべきこと
取材依頼を受けたとき、多くの人は「あまり質問すると失礼では」、「面倒な人だと思われたくない」と遠慮してしまう。
しかし、以下のことを聞くのは取材を受ける側の当然の権利だ。遠慮する必要は一切ない。
「どんな番組・媒体ですか?」——報道、情報、バラエティで扱いは全く違う。
「今回の企画で一番伝えたいことは何ですか?」、「社会にどんな変化を期待していますか?」——企画の意図を確認する基本の質問だ。
「顔出し・名前出しは必須ですか?」——条件交渉は取材を受ける側の権利である。
「他に誰が出演しますか?」——対立構造に組み込まれるリスクを知るために必要だ。
メディア側からすると、こうした質問をされることは全く嫌ではない。むしろ、企画意図を共有して「共闘関係」になったほうがやりやすい。遠慮なく聞いてほしい。
担当者個人ではなく「組織としての見解」を聞く
ここで重要なのは、取材に来る担当者個人の見解だけでなく、会社なり番組としてオーソライズされた見解を確認することだ。
現場の担当者は、誠実に企画意図を説明してくれるかもしれない。
しかし、その担当者は上司と取材相手の板挟みになりうる。制作のピークで上司から軌道修正を命じられたとき、ほとんどの担当者は上司の命令に従わざるを得ない。
だからこそ、「担当者としてのお考えはわかりました。番組(会社)としての方針も同じと考えてよいですか?」と確認しておくことが重要だ。
相手の身元を確認するテクニック
取材依頼が本物かどうかを確認するための実践的なテクニックがある。
まず、企画書、名刺、公式メールアドレスを求める。正規の取材であれば、これらを出し渋る理由はない。
さらに有効なのは、用事が特になくても、「スケジュールを再確認したい」などの理由をつけて、外線電話から担当者に繋がれるかどうか確認することだ。
代表番号にかけて「○○部の△△さんをお願いします」と言って繋がれば、少なくともその人物がその組織に所属していることは確認できる。
曖昧な回答は危険サイン
企画意図や方針を聞いたときに、曖昧な回答しか返ってこない場合は非常に危険だ。
現在の取材倫理において、騙し討ちは許容されない。昔は騙し討ちが基本だったが、今は違う。だから、聞けば誠実に答えてもらえるはずだ。
それでも曖昧、不誠実な対応をされる場合は、その取材は絶対に受けないほうがいい。あとからちゃぶ台返しされるケースがほとんどだからだ。
そもそも取材を受けること自体がリスクしかない一般人にとって、危険なサインが出ている案件に応じる理由はない。
断ることに遠慮はいらない
「せっかく声をかけてもらったのに断るのは失礼では」、「今後何か不利益があるのでは」——こうした不安は杞憂だ。
メディア側は、断られることを何とも思っていない。断られたら次の人に当たるだけだ。ナンパと一緒である。断られ慣れているから、いちいち気にしない。
断ったことで報復されたり、悪く書かれたりするリスクもない。
「検討します」と言った後でやっぱり断ることも、全く問題ない。気まずさを感じる必要はない。
断るときに理由を述べる必要もない。「スケジュールがどうしても合わなくて」——これで十分だ。
即答を求められても応じる必要はない
「明日撮影なんですが、今日中にお返事を」、「今週放送なので、すぐに」——こうした即答を求める連絡は珍しくない。
しかし、それは相手の都合であって、あなたの都合ではない。「時間がない」と言われても、それに応じる義務はない。
本当に時間がなければ、複数の担当者が絨毯爆撃のようにいろいろな人に当たっている。あなたが断っても、彼らには全く影響がない。
だから「明日は無理ですね」と言って断ればいい。それだけのことだ。
自分のペースを守り、納得できる条件でなければ応じない。その姿勢が、あなた自身を守ることになる。
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次回は、「取材を受けると決めたら——事前準備」について解説する。

