▼ 中元容疑者の逮捕が掘り起こしたもの
サンデースポーツの放送前に渋谷で性的暴行を起こし、そのまま平然と出局していた中元容疑者(50)の逮捕をきっかけに、NHKと警察の古い関係がSNS上で改めて注目されている。
裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火氏が2008年12月24日に書いたブログ記事が、Xで広く拡散されているのだ。
18年近く前の記事だが、そこにはNHKと警察の「持ちつ持たれつ」を示す法廷証言が記録されていた。
▼ 2008年の法廷で語られた「裏取引」
阿曽山大噴火氏は多数の裁判を傍聴してきた裁判傍聴のプロだ。
そのブログに記録されていたのは、東京地裁で傍聴したNHK元記者の窃盗事件だった。
被告人は65歳。NHK記者を30年以上務め定年退職。
早稲田大学の購買部で法律関係の本9冊、2万3300円相当を盗んだ。換金目的ではなく、純粋に本が欲しかったという。
問題は前科前歴だ。前科2犯、前歴7件。9回捕まっていながらNHKを辞めさせられていない。検察官がその点を突いた。
検察官「以前にも同様の罪で捕まってるでしょ。それは会社の方は知ってたの?」
被告人「はい」
検察官「処分というかね、こういう会社だし…、明るみに出そうだけど」
被告人「それは警察と裏取り引きと言うか…」
阿曽山大噴火氏は「なんと、そんな取り引きがあるのか!」「この被告人の事件を隠す為に、NHKは警察に何したんだろ?」と書いている。
度重なる逮捕を隠し通すために、NHKと警察の間に何らかの了解があったことを、当事者が法廷で認めたという2008年の発言が、2026年の逮捕事件をきっかけに掘り起こされた。
▼ 元会長が書き残した「警察支配の教科書」
こうした隠蔽構造は、突然生まれたものではない。
私は以前、元NHK会長・島桂次(通称シマゲジ)の自伝「シマゲジ風雲録」を読み、その常軌を逸した内容に驚愕した。
シマゲジの警察取材術はこうだ。
まず下っ端の警察官を殴り飛ばして名前を売る。次に幹部クラスをスナックで酔いつぶし、スキャンダルで服従させる。さらに、下っ端の警察官の昇進試験を通すよう幹部に圧力をかけ、現場に恩を売る。
すると警察官は真っ先にシマゲジに情報を提供するようになる。
NHKだけにネタが集中すると新聞社が面白くない。
そこでシマゲジが「闇デスク」となって各社にネタを差配し、時には特ダネも掴ませて有能な記者を東京に送り込み、自分の手駒にする。
これは元NHK会長が自著に堂々と書いた内容だ。信頼度は極めて高い。ここまでは過剰にせよ、昭和の時代、警察とNHKの関係には並々ならぬものがあった。
▼ 私が在職中に見聞きした「断片」
私自身は警察取材の現場にいたわけではない。だが、昔の記憶の断片を繋ぎ合わせると、この構造の輪郭が見える。
例えば、車両部の定年間近の職員が、緊急報道時に中継車で高速を時速160キロ以上出した話をよく語っていた。
もちろんスピード違反自体も危険なのだが、中継車は極めて重量があり、本来そのような高速走行には不適切な構造だ。
だが警察は「NHKだから」黙認していたという。もし緊急報道を止めたら、そのことの方が世間から追及される時代だったのかもしれない。
飲酒運転を見逃してもらった話も、高齢の記者からよく聞いた。警察幹部と一緒にバーやキャバクラ、果ては風俗に行く話も珍しくなかった。取材先との関係構築の名目だが、実態は癒着に近い。そしてこれがNHK側にも「貸し」を作った。
その「貸し」が回収される場面も朧げに記憶がある。
先輩が泥酔して飲食店の看板を蹴飛ばし破壊した。器物損壊だが、特に問題にならなかった。こうしたもみ消しの際の決まり文句はいつも同じだった。「身内の恥をさらすのか」「受信料の不払いが起きたらどうするんだ」。
交通違反の黙認、飲酒運転の見逃し、素行不良の不問。個々は些細でも、積み重なって「NHK職員の不祥事は表に出ない」という暗黙の了解が組織に根を張っていった。
▼ 年収1500万円の局長が、5000円を盗んで黙っていた
この「黙る」文化はNHK職員自身の犯罪にも繰り返されている。
2006年、NHK富山放送局長(当時54歳)はホームセンターで計5000円相当を万引きした。警察の事情聴取も受けたが、地元新聞社の記者が自宅に来るまで誰にも報告しなかった。
年収約1500万円。局内では「まじめ」と評されていた人物だ(なお、NHKは報道発表の際、どんな札付きのワルでも「まじめ」と評する)。
また、2007年には、松江放送局の記者(49歳)はおにぎり1個、105円を万引きして罰金20万円。この記者は罰金を納付しても放送局に報告していなかった。
さらに近年では、2021年にはNHK旭川放送局の副局長(58歳)はリサイクル店で770円相当を盗んで逮捕されている。
改めて冒頭の元記者について振り返ってみたい。
その記者は、前科2犯・前歴7件を重ねながら30年以上在籍し続けた。
いずれも生活苦ではない。共通するのは、発覚しても自分からは報告しないことだ。
万引きですらこうなのだから、より深刻な不祥事が自主的に報告されるはずがない。
問題を公にすれば上司の監督責任が問われ、組織全体に延焼する。
隠し通せば人事異動で関係者は散り、責任の所在が曖昧になる。この「隠し通したもの勝ち」のインセンティブ構造が、NHKの不祥事体質の根幹だ。
▼ 「報道の自由」が隠蔽の盾になるとき
大前提として、昭和のシマゲジのような警察との露骨なもみ消しの構造は、おそらく令和の今はほとんど存在しない。警察は普通に情報を公開するようになった。
中元容疑者の逮捕も、その他のNHK職員の不祥事も警察からは即座に発表され、報道されている。
ただ今も変わらず厄介なのは、「報道の自由」・「取材源の保護」というジャーナリズムの正当な原則が、組織防衛の道具にすり替わる構造が、NHK問わず放送業界には残り続けている点だ。
取材先との癒着が問題になりそうなとき、「取材源の保護」を盾に開示を拒む。職員の不祥事が取材活動と絡むとき、「報道の自主自律」を理由に外部調査を阻む。本来、外に向けて掲げる盾を、内側の傷を隠すために使う構造は今も変わらない。
中元容疑者の事件は、一人の逸脱した職員の犯罪ではない。
問題を知りながら放置し、表沙汰になれば「身内の恥」として処理し、ジャーナリズムの原則を組織防衛に流用してきたツケが今、露わになっているのである。
NHKの不祥事について、より詳しくは私のnoteで。
https://note.com/darkside_of_nhk/m/m48b1a2dadb33

