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Jan 21, 20264 weeks ago

The Story of How My Brother with Down Syndrome Earned a Fortune and Spent It in an Unexpected Way

岸K
岸田奈美|Nami Kishida@namikishida

AI Summary

This article recounts the story of a younger brother with Down syndrome who unexpectedly earns a fee equivalent to thirty years of his wages for a freelance job. A debate ensues between his sister and their mother about whether he should be allowed to manage this large sum himself, with the sister ultimately prevailing to let him learn the value of money through personal experience. Contrary to expectations that he would buy a coveted video game, the brother's first purchases are a cold McDonald's muffin for his sick mother and subsequent meals for his family. His spending is driven solely by the desire to bring joy to his loved ones. The sister realizes that what her brother longed for was not the money or an IC card itself, but the profound happiness of using resources to care for others. She reflects that the talent for using money to create happiness might be more valuable than the talent for earning it. Due to health concerns from overindulgence in fast food, new family rules are established for his spending. The sister also decides to buy him the game for his birthday. The narrative humorously and poignantly explores themes of money, familial love, and what truly brings fulfillment.

弟が巨額の金を稼いだ。

30年分の給料にあたる額を一発で。
たった数時間で、稼いできやがった。

岸田家の歴史を揺るがす大事件!

でも、使い道にはもっと驚かされた。

まあ、そもそも、うちの弟はめちゃくちゃ給料が低いんやけどな……。

週5日の出勤で、日給が500円。
昼食代を引くと、手取りは50円だけ。

弟は生まれつき、ダウン症だから、障害のある人の作業所で働いている。稼ぐよりも生活の訓練をするところだから、しゃーない。

そんな弟に夢みたいな声がかかった。

「ほぼ日手帳という商品につかうカレンダーを書いてくれませんか?」

「えっ、うちの弟にですか?」

弟はまったく文字が書けないのだが、わたしが本『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』を出版したときに、ページ番号を手書きしてくれたのだ。

ふぞろいな数字たちが、手帳のデザイナーの目に止まった!?

「んー、おお、ほな、かくでえ」

弟には数字職人としての才覚が芽生えていた。

ーーーしかし、文字職人はマイペースすぎた。
一文字書くのに一分はかかった。

わたしは急遽マネージャーとして、弟をおだて、ジュースをおごり、最後には温泉旅館に缶詰でギリ完成した!

ちなみに、温泉旅館代はわたしの自腹だ。

なんでや。

……そんなわけで弟は30年分の給料を、一気に手に入れてしまったのだった。

家族に成り上がりの大富豪が爆誕!

「これは、ちゃんと貯金しとこうな」

母が言うので、わたしが止めた。

「いや、良太が稼いだお金やねんから、 良太に使い道を決めるべきやろがい!」

「なに言うてんの!あかんって!良太はお金の価値をよくわかってないねんから、 危ないわ」

通帳を隠そうとする母に、わたしは全力で立ちふさがった。

「お金の価値は、自分で使ってみないと、 一生わからへんのや!」

「騙されて、盗られたらどうすんの!」

「それも人生や。お金はネコババされて、借りパクされて、大切さを学ぶもんや」

「えええ……?」

「痛い目にあうから人は強くなるねん。 その機会を親が奪ったらあかんと思う!」

勢いだけはあるわたしの持論に、常識だけがある母はたじろいだ。

ただ、それは、本心ではなかった。

わたしは!おもしろがってるだけェ!

ひとりで買い物したことがない弟に、お金使わせたらどうなってしまうのか、おもしれ〜ことになるん見たいだけェ!

最終的には、

「もしそれで良太がお金に困ったら、 姉のわたしがなんとかしちゃる!」

わたしが大口を叩いて、押しきった。

口から先に産まれてきた女である。

さて。

弟には現金で全額渡すのではなく、ICカードにチャージして渡すことにした。

弟はいつも100円玉を数枚しか持つことを許されていなかったので、ICOCAに強烈な憧れを抱いていた。

弟はICOCAを両手で受け取ると、目を閉じて

「ありがと……ありがと……」

天に祈るごとく、静かに感涙していた。

2万円までしかチャージできなかったが、とりあえず様子見にはじゅうぶんだろう。

「ええか?これをピッとして払うんや」

近所のコンビニで使い方を伝授した。

弟は目を輝かせて、フンフンうなずいていた。

「好きなもん買うて、ええねんで」

「ええのんか」

「あんたががんばって稼いだお金や」

「ええのんか」

「ちゃーんと、考えるんやで」

母はずっと心配そうに、草葉の陰から覗き見していた。

わたしには、弟が買うであろうものをなんとなーく予想できていた。

たぶん、ゲームソフトだろうな。

めっちゃ欲しがっとったし。

ところが、弟はゲームを買わなかった。

次の日。

母は朝から体調が悪く、寝込んでいた。

「ただいまー」

作業所から帰ってきた弟が、母に手渡したのは

ひ、冷えきったマクドのマフィン!!!!

朝マックが、なぜ夕方に!?

作業所のスタッフさんに確認してみたら、

「お母さんがカゼ引いてるからって、休み時間に買いに出られたんです。ご自分のハンバーガーとコーラは、お昼ご飯にされていましたよ」

弟のはじめての買い物に、母はボロボロ泣いた。

「ありがとうねえ、優しいねえ」

青紫色の顔でマフィンをかじったが、普通に病人なので全然食べられなかった。

わたしがぜんぶ食べた。

また別の日。

元気になった母と一緒に車に乗って、買い物へ出かけた。

夜ご飯をどうしようか悩んでいると、

「マクドマクドマクド」

弟が連呼。

「マクド、おれ、お金」

熱意に負けて、ドライブスルーに入った。

母が車を停めてお金を払おうとしたら

「こっちこっち」

弟が勝手に後部座席の窓をジーッと開け、ICOCAでサッと支払い、マクドを受け取った。

あまりのスマートぶりにビビッた。
店員さんもビビッた。

えっ後ろの人が払うの!?って顔してた。

よく考えりゃ大富豪は後部座席が似合うよな。

「わたしが払うで」

「ええねん、ええねん」

「でも……」

弟はニヤリと笑って、ICOCAをチラ見せした。

「ええねん」

もうこれは三十回以上の飲み会で、部下におごってきた課長の笑顔すぎる。

「ほな……ゴチになりますっ!」

「ええねん」

結局、弟は何日経っても、ゲームソフトを買わなかった。

わたしはようやく気づいた。

弟は、自由に使えるお金や、ICカードがほしかったのではない。

誰かのためにお金を使いたかったのだ。

誰かを喜ばせたくてお金を使うことに、ずっと、ずっと、あこがれてたのだ。

ケチなわたしったら忘れてた。

ごちそうすることの、嬉しさを。

愛する人に、喜んでもらいたい。
お腹いっぱいになってもらいたい。
助けたい、役に立ちたい。

そのためにわたしたちは、毎日、働いていたのではなかったか?

汗水たらしてゲットした初任給で、家族にラーメンをおごった日の幸せを思い出してわたしは泣きそうになった。

弟は25年間も待ちわびていた、その圧倒的な喜びを今、噛みしめている。

そんなお金の使い方、誰に教えてもらったわけでもないのにね。

お金をうまく稼ぐ才能がなくても、お金をうまく使う才能のほうが、よっぽど人を幸せにするのかもね。

わたしは弟を見ていて、思ったのだった。

時は流れ、現在。

あまりにもマクドに通いすぎた弟は、健康診断にひっかかった。

こいつ…もしかして…マクドを自分で食らう口実に、マクドを土産にしている…!?

弟の健康も危ぶまれているし、四方八方におごりまくる不審なあしながマクドおじさんになってしまうリスクを鑑みて、

「ICOCAを持っていくときは母に言う。使い道は後で確認する」

というルールが組み込まれた。

ま、しゃーない。

あと、弟のほしいゲームソフトは11月の彼の誕生日に、わたしが自腹で買うことになった。

なんでや!

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